
皆さんがよくご存じの常滑焼と言えばまず急須が挙げられるでしょう。

急須とは、いうまでもなく煎茶用の道具で、把手が横についているものが一般的です。実は日本の急須には2つの系統があり、1つは“後手”といわれる注ぎ口と把手が一直線になっており、明朝末期に興った中国江蘇省宜興窯の茶壺に由来するもの、またもう1つは注ぎ口に直角に把手がつく“横手”といわれる福建省系の「キップシュ(湯罐のようなもの)」に由来するもので日本では後者形の急須がよく使われています。
常滑焼急須の制作は江戸時代末期に始まったと伝えられ、今日まで優れた技術が継承されてきています。
そもそも、それまで抹茶文化が主流の日本に、新たに横手急須を用いる喫茶が伝わったのは、1654年に福建省から京都宇治の黄檗山へ来日した隠元禅師によるとされ、同時に道具類も福建省から輸入したと考えられています。
1750年頃、関西を中心に流行した文人趣味の中で中国式の道具を用いた煎茶が広まりました。当時の道具は中国製の煎茶道具が中心でしたが、数十年して清水焼の陶工より日本での煎茶道具生産が始まっていったようです。
こうした流行や需要のなかで、常滑では、文政年間(1818-1829)に稲葉高道が初めて急須を作ったと伝えられています。その当時は在来の粗土を使用していましたが天保年間(1830-1844)には、二代目伊奈長三が常滑周辺で得られる白泥焼の原料を見出し、生地に乾燥させた海草を巻き赤焼けさせる「藻掛け」や「火襷」といった新しい技法も発案し急須制作に更なる発展をもたらしました。

安政元(1854)年には杉江寿門堂が平野忠司らの研究を受け、当時最も上質な急須と評価される宜興窯の朱泥の素材に近い朱泥の常滑焼を作り出すことに成功しました。常滑周辺で得られる鉄分の多い粘土を常滑の大型窯に適した酸化焔によってじっくり焼くことで、宜興朱泥と同じく器壁が薄く、釉をかけないが肌に素焼きの独特の赤褐色のツヤのある急須です。その急須は水簸(*2)した粘土を使うため粒子が細かく、焼成の前後によく磨くために表面は非常に滑らかで、使うほどに艶が増していくのです。
明治11年になると鯉江方寿らによって招かれた宜興窯の茶器に明るい清朝の文人、金士恒は宜興窯茶器の製法を常滑に伝え、装飾法を伝授し朱泥急須はより一層完成されました。金士恒は他にも重要な「パンパン製法」と呼ばれる木板での叩き締めの技法や、乾燥後に絵や書を彫り付ける「加飾彫刻技法」も伝えています。
しかしながらこの明治期、常滑焼といえば主に火鉢や植木鉢が中心でしたが、こうした中、常滑焼急須を広げた名工といえば山田常山の存在が大きいでしょう。
山田常山初代は、明治期からロクロ造りによる中国風の美しい急須を数多く世に送り出しました。続く二代目にもその急須造りの技術は受け継がれ、三代目山田常山にて大きく花開き、その伝統の上に今日的な新しい独創的な感覚を築いた朱泥急須は絶大な評価を得て、朱泥急須の愛知県指定無形文化財保持者、ついには国指定の重要無形文化財保持者(人間国宝)に認定されました。
名実ともに常滑の伝統を受け継ぐ代表的存在だった三代山田常山は大変惜しまれながらも平成16年他界されましたが、その作風は息子の四代目山田常山(山田絵夢氏)、孫の山田想氏の両氏にも受け継がれ、常滑を始め全国のギャラリーで取り扱われ、一般から陶芸通まで、広く好評を博すとともに今後の活躍が期待されています。

さて、常滑焼の1000年の歴史を振り返ってみると常滑焼の魅力とは歴史の中で数多くの作家や職人の手を介して現代まで伝わってきたことが挙げられます。皆さんの手に渡る1つ1つの作品には、この長い歴史の中で発展してきた高度な技術や作り手の思い、温かみが詰まっているといえるでしょう。
常滑焼急須はもともと芸術品としての要素が高かいものでしたが、ここでご紹介してきたように、それ以前の古くからの常滑焼は用品を多く世に出してきました。現代、妙技を凝らしより芸術性を高めた常滑焼も多くの人が「実際日常で使ってこそ」より価値をより感じられるかも知れません。
最高級品に分類される常山急須を例にとっても、極めてシンプルなデザインのものが多く、芸術性はもとより茶切れのよい注ぎ口、茶葉を十分に蒸らすフタ合わせの精巧さなど、使う道具としての完成度も素晴らしいからこそ「用と美」といわれるよう道具の美しさが光るのです。
また、常滑の陶製急須を使用しお茶を出すと、水簸によって精製された胎土は粒子が細かく、アクを吸着させ、口当たりがまろやかになります。また、使い込むほどに表面にツヤが出て、道具により一層の愛着が持てることでしょう。
どうぞ、ぜひ皆さんにも常滑焼急須のその歴史を感じながら、永く愛用していただけることが出来ましたら大変嬉しい限りです。
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